第21期竜王戦第7局、渡辺竜王防衛


最後は渡辺がチャンスをつかみ、寄せきった。
こうして防衛、つまり永世竜王の資格を得た。
三連敗後の四連勝という史上初の快挙も花を添えた。

羽生が良さそうな終盤だったが、そこであきらめず離れずについて行った渡辺のしぶとさ、そして強さを評価するべきだろう。
崖っぷちで四つ勝つという途方もないことをやってのけた渡辺を称えたい。あの羽生善治をタイトル戦で退けたのだから。渡辺夫人をも称えておくべきか。

123局とまったく別人の将棋を見せた渡辺。もちろん前三局が本調子では無かったのであろうが。堅さと攻め、と言ったか、渡辺の将棋における堅さと攻めをこの第7局では存分に見た。△4一香の鉄壁さ。なかなかほぐしにくいかと思っていた攻め駒がきれいに捌けていったのに感嘆した。今回のタイトル戦でようやく渡辺の将棋のおもしろさがわかってきた。
永世竜王、渡辺。



対する羽生は、やはり第四局が痛かったか。あるいは123局で勝ちすぎたのだろうか。
羽生という棋士は、意外にも本当の大勝負で敗れる印象がある。初めての7冠挑戦の時、大山15世名人のタイトル戦連覇記録である13連覇の時、永世名人のかかった名人戦。そして永世竜王の今回。
だが、羽生が羽生でありつづけているのは、二度目のチャンスを必ずつかんでいるからだ。
いずれの記録も達成している。
羽生を形作っているのは執念だ。
才能が、天才が、羽生マジックが、オールラウンダーが、などと羽生に関する多くの評があるが、一度目の失敗をバネに遙か高みに到達するのが羽生という男であり、バネの役割を果たしているのが、執念だと見る。
羽生は再び竜王戦に出てくるだろう。それが羽生だからだ。羽生の中に棲まう鬼を渡辺は確かに揺り起こした。