対局中継について

今回の王位戦第七局において、北海道新聞の中継スタッフが箱根まで遠征されて中継を担当されている。9月12日から二週間近くにわたって道新スタッフブログが更新され続け、盤外の背景を圧倒的な分量と素朴で味わい深い筆致で楽しませてくれた。王位戦はいくつかの新聞社の共催で、中継も一局ごとに各社もちまわりであり、その力のいれ具合には大きく差がある。棋譜を中継するだけでコメントも無いところがあるのも事実で、別にそれに対して金を払っていないこちらが文句を言うつもりは毛頭無い。しかし、その中で明らかにコストに見合わない将棋の中継に力を注ぐことにGOサインを出している偉い方が北海道新聞にはいらっしゃって、また少しでも良いものにしようというスタッフの一人ひとりの目に見えない努力があり、素晴らしいものを見せていただいているのだと理解しています。
始まるまでのスタッフブログも楽しめ、棋譜の再生もjavaスクリプトflashと二通りを用意され、テキスト形式の棋譜も別に置いてあり、対局者、盤面をwebカメラで中継し、指し手の解説も通常版と簡易版の二つを置いてあり、写真を一覧でき、対局開始などの動画もあり、プレゼント企画もあり、新しい試みとして、音声の中継や、控え室中継も予定していて、負荷対策にサーバーもいくつも準備しているようだ。
これ以上何を望んだらいいのだろうかと思うほどの内容である。しかも無料。将棋ファンは北枕で寝るべきであろう。
そのような感謝の気持ちで先日のエントリ第49期王位戦第七局の中継サイトを見よを書いた。多くの方も同じようにこの仕事ぶりを賛嘆していたようで、北海道新聞のスタッフの元に大反響が届いているとのことだ。盛り上がることはとても良いことだ。


けれど、自分の思っているのと少し違う方向に進んでいるような気がしているのも事実ではある。もちろんただの気のせいかもしれないのだが。
北海道新聞の中継が素晴らしいことは認めるが、北海道新聞のスタッフの努力が、他所の中継スタッフの努力よりも上回っているとは言うつもりはない。情熱が上回っていると言うつもりもない。もちろん下回っていると言うつもりもない。
スタッフブログを読めばわかるように今回の中継は大人数で行っており、そもそもそこから違ってくる。使える機材にも差があっても驚きはしない。
どんなに頑張っても、神のように動いても一人でできることには限りがある。正確なことは知らないが、将棋会館などで行われている中継は一人か二人かその程度の人数でやっているのではないかと勝手に根拠もなく想像している。それならば今の他所の中継は神業と言って良いほどのできばえではないだろうか。棋譜にコメントがなく棋譜のみの中継しかないのだとしても、それは将棋が斜陽産業であることを思えば仕方のないことである。限られた予算、機材、極小人数で行う中継であるならば、スタッフはそれを埋めるためおそらく見えないところで努力をされているのではないかと想像するばかりだ。
北海道新聞のスタッフたちへの感謝と、他の中継のスタッフたちへの感謝に差をつけるつもりは自分にはない。
棋譜を入力して、手を読んで、棋士の検討を聞いて、コメントを書き込み、サーバーにアップロードする。これを一人で、一分将棋でやるとなるともはや神業としか思えない作業になるだろう。棋譜のコメントを読めば、書いているスタッフの方がどれほど将棋が好きかわかるというものだ。
自分のような金を払っているわけでもないただの下手の横好きは、ただただ感謝するばかりだ。中継を存分に楽しんで、ああ今日の将棋もおもしろかったと、誰が見るかもわからないチラシの裏紙のようなこのブログに書き殴ることぐらいである。


まあこんなことをいい人ぶって考えるのはおそらく自分ぐらいであろう。他の中継も今回ぐらいになればいいなと身勝手に無責任に思う部分が心のどこかにあるため、他の人の良い反響を見て良からぬ事が卑しくも思いついてしまうのだと思う。
秋の夜長だというのにこうくだらぬことばかり考えてしまうとは。